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解説:共通番号制を斬る(その6) 「所得捕捉・漏洩対策でも問題山積 窮屈・不自由な『管理社会』の到来か」

所得捕捉・漏洩対策でも問題山積

窮屈・不自由な「管理社会」の到来か

 これまで、社会保障と税の共通番号制度(以下:番号制)を中心に据えた医療・社会保障の「給付抑制と市場化」の仕組みや流れについて解説してきた。ここでは、医療・健康情報の流れ、番号制と医療IT戦略の相関性について、整理する(下図)。mynumber-soukanzu.jpg

 図を見ても明らかなように、レセプト、カルテをはじめ、全ての医療・健康情報は「情報連携基盤」を通じて「名寄せ」される。その情報は行政機関だけでなく民間企業も利活用。給付抑制、市場開放に向けて、政府は給付と負担の生涯管理によるコントロール、経済界は新たな民間保険商品や健康・医療サービスの創出に躍起になっている。

 

正確な所得捕捉不可能 「公平・公正」は幻想

 番号制は医療・社会保障に止まらず、税分野や情報漏洩対策等においても幻想や誤解が多く、問題は山積している。

 

 番号大綱では節々に「公正・公平な…」「公平性」という言葉が使われている。

 政府の主張は「公正・公平な給付を行うためには、公平な負担が必要」「そのためには国民一人ひとりの正確な所得捕捉が必要」というもの。番号制によって所得情報の正確な捕捉を行い、総合合算制度や税制により所得・自己負担等の状況に応じたきめ細やかな制度設計及び運用を行い、適切且つ公正な社会保障給付が可能になるとしている。

 

 しかし、番号制を導入しても、正確な所得捕捉は不可能だ。まず、自営業者等の事業所得を完全に把握するためには、売上・仕入れ等に関する全ての取引の記録を番号制によってデータ収集する必要がある。そのためには、全ての商取引を電子マネーに限定し、番号制と取引情報をリアルタイムで紐付けさせる必要がある。これは、紙幣や硬貨での取引をなくすことを意味しており、非現実的と言っても過言ではない。また、番号制で捕捉できるのは、制度上、国内取引だけであり、高額所得者等の海外投資による利益等は捕捉できない。

 

 所得捕捉の限界については番号大綱でも認めているが、「一定の改善には大きな意義がある」と結論。所得捕捉の精度がどの程度上がり、公平・公正な給付と負担がどの程度実現するのか、具体的な指標や現状との比較が何も示されていない。これで番号制が「公平性」の向上に不可欠だという政府の理屈付けは、著しく説得力に欠ける。

 

漏洩・不正の防止不可能 危険な医療情報一元化 

 多くの国民が懸念する情報漏洩、不正対策については、情報の分散管理、自己情報へのアクセス記録の確認、監視・監督機能としての「第三者機関」の設置―などを掲げている。現在、この第三者機関については、公正取引委員会などと同様、独立性が高く、強い権限を持つ「3条委員会」とする方針が固められている。 

 しかし、近年頻発している企業や政界への「サイバー攻撃」の被害状況を見る限り、どんな施策を講じても漏洩や不正防止は限りなく不可能。秘匿性の高い医療・健康情報を容易に一元管理できるシステムは危険極まりない。

 

 そもそも、国民は政府や公務員の個人情報保護に対する意識の低さに対し不信感を持っている。それは消えた年金情報や昨年多発した公務員の情報漏洩・データ改ざん等、多くの事件が物語っている。こうした現状で秘匿性の高い医療・健康情報などを政府や民間企業に一元管理され、利活用されることに不安を抱くのは当然である。

 

国民の幸福・健康に寄与する情報活用を

 番号制がひとたび導入されれば、次第に利用範囲が拡大され、最終的には常に誰かに管理され、窮屈で自由もなく、不公平な「管理社会」が到来することになる。特に医療・社会保障においては、医療IT戦略との連動により給付抑制と市場化に導くインフラであることは明白。公的医療保険を捻じ曲げ、国民に過度の負担を強い、不幸にすることになる。多くの危険性をはらむ番号制の導入は、何としても阻止しなくてはならない。

 

 しかし、医療IT化、医療情報の利用という点においては、その全てを否定するものではない。事実、医療現場では画像診断や手術等でのIT機器の活用範囲は広がり、目覚ましい成果を多く残している。また、近年ではレセコン・電子カルテが飛躍的に普及。医療事務の効率化、日常診療での医療情報の活用に大きく貢献している。今後、医療情報が国民同意の下に正しく使われ、新たな医療技術や医薬品等の開発、日常診療の向上など、医療の発展に寄与することを期待する。

 

 国民の幸福と健康に寄与し、すべての国民が納得できる医療・健康情報の活用の道を検討していく必要がある (終了)。

 

(2011年11月5日号 神奈川県保険医新聞 掲載)

所得捕捉・漏洩対策でも問題山積

窮屈・不自由な「管理社会」の到来か

 これまで、社会保障と税の共通番号制度(以下:番号制)を中心に据えた医療・社会保障の「給付抑制と市場化」の仕組みや流れについて解説してきた。ここでは、医療・健康情報の流れ、番号制と医療IT戦略の相関性について、整理する(下図)。mynumber-soukanzu.jpg

 図を見ても明らかなように、レセプト、カルテをはじめ、全ての医療・健康情報は「情報連携基盤」を通じて「名寄せ」される。その情報は行政機関だけでなく民間企業も利活用。給付抑制、市場開放に向けて、政府は給付と負担の生涯管理によるコントロール、経済界は新たな民間保険商品や健康・医療サービスの創出に躍起になっている。

 

正確な所得捕捉不可能 「公平・公正」は幻想

 番号制は医療・社会保障に止まらず、税分野や情報漏洩対策等においても幻想や誤解が多く、問題は山積している。

 

 番号大綱では節々に「公正・公平な…」「公平性」という言葉が使われている。

 政府の主張は「公正・公平な給付を行うためには、公平な負担が必要」「そのためには国民一人ひとりの正確な所得捕捉が必要」というもの。番号制によって所得情報の正確な捕捉を行い、総合合算制度や税制により所得・自己負担等の状況に応じたきめ細やかな制度設計及び運用を行い、適切且つ公正な社会保障給付が可能になるとしている。

 

 しかし、番号制を導入しても、正確な所得捕捉は不可能だ。まず、自営業者等の事業所得を完全に把握するためには、売上・仕入れ等に関する全ての取引の記録を番号制によってデータ収集する必要がある。そのためには、全ての商取引を電子マネーに限定し、番号制と取引情報をリアルタイムで紐付けさせる必要がある。これは、紙幣や硬貨での取引をなくすことを意味しており、非現実的と言っても過言ではない。また、番号制で捕捉できるのは、制度上、国内取引だけであり、高額所得者等の海外投資による利益等は捕捉できない。

 

 所得捕捉の限界については番号大綱でも認めているが、「一定の改善には大きな意義がある」と結論。所得捕捉の精度がどの程度上がり、公平・公正な給付と負担がどの程度実現するのか、具体的な指標や現状との比較が何も示されていない。これで番号制が「公平性」の向上に不可欠だという政府の理屈付けは、著しく説得力に欠ける。

 

漏洩・不正の防止不可能 危険な医療情報一元化 

 多くの国民が懸念する情報漏洩、不正対策については、情報の分散管理、自己情報へのアクセス記録の確認、監視・監督機能としての「第三者機関」の設置―などを掲げている。現在、この第三者機関については、公正取引委員会などと同様、独立性が高く、強い権限を持つ「3条委員会」とする方針が固められている。 

 しかし、近年頻発している企業や政界への「サイバー攻撃」の被害状況を見る限り、どんな施策を講じても漏洩や不正防止は限りなく不可能。秘匿性の高い医療・健康情報を容易に一元管理できるシステムは危険極まりない。

 

 そもそも、国民は政府や公務員の個人情報保護に対する意識の低さに対し不信感を持っている。それは消えた年金情報や昨年多発した公務員の情報漏洩・データ改ざん等、多くの事件が物語っている。こうした現状で秘匿性の高い医療・健康情報などを政府や民間企業に一元管理され、利活用されることに不安を抱くのは当然である。

 

国民の幸福・健康に寄与する情報活用を

 番号制がひとたび導入されれば、次第に利用範囲が拡大され、最終的には常に誰かに管理され、窮屈で自由もなく、不公平な「管理社会」が到来することになる。特に医療・社会保障においては、医療IT戦略との連動により給付抑制と市場化に導くインフラであることは明白。公的医療保険を捻じ曲げ、国民に過度の負担を強い、不幸にすることになる。多くの危険性をはらむ番号制の導入は、何としても阻止しなくてはならない。

 

 しかし、医療IT化、医療情報の利用という点においては、その全てを否定するものではない。事実、医療現場では画像診断や手術等でのIT機器の活用範囲は広がり、目覚ましい成果を多く残している。また、近年ではレセコン・電子カルテが飛躍的に普及。医療事務の効率化、日常診療での医療情報の活用に大きく貢献している。今後、医療情報が国民同意の下に正しく使われ、新たな医療技術や医薬品等の開発、日常診療の向上など、医療の発展に寄与することを期待する。

 

 国民の幸福と健康に寄与し、すべての国民が納得できる医療・健康情報の活用の道を検討していく必要がある (終了)。

 

(2011年11月5日号 神奈川県保険医新聞 掲載)