保険医の生活と権利を守り、国民医療の
向上をめざす

神奈川県保険医協会とは

開業医を中心とする保険医の生活と権利を守り、
国民の健康と医療の向上を目指す

TOP > 神奈川県保険医協会とは > 特集:共通番号制を斬る(その4) 「番号制とPHR・EHR... 給付抑制と市場化に医療情報を利活用」

特集:共通番号制を斬る(その4) 「番号制とPHR・EHR... 給付抑制と市場化に医療情報を利活用」

番号制とPHR・EHR…

給付抑制と市場化に医療情報を利活用

 政府が社会保障・税の共通番号制度(以下:番号制)で総合合算制度(=社会保障個人会計)を構築し、「給付抑制と市場化」を目論んでいることは(その3)で解説した通り。この給付抑制と市場化の図式を堅牢なものとすべく、医療・健康情報の利活用を目論んでいる。

 

 2011年1月31日に閣議決定した「番号制に関する基本指針」及び同年6月30日に閣議決定した「番号大綱」では、番号制の医療分野での将来的な利用範囲の拡大、つまりは「あらゆる場面での医療・健康情報の利活用」を示唆する記載が散見される(左表)。

 これらの内容を要約すると、(1)自らの医療・健康情報の入手・閲覧及びその利活用(PHR*)、(2)医療・健康情報を活用した地域医療携基盤の実現(EHR*)、(3)医療統計・疫学調査等を目的とした診療情報等の2次利用―に大別できる。

 

 しかし、これらの記載はあくまで〝たら・れば〟で、目的や利用シーン等の具体的な論及はなく、理想論・可能性の範囲を超えていない。また、番号大綱では当面の利用範囲を社会保障各種制度の手続き等に限定。今後の発展性の言及だとしても、いささか勇み足が過ぎる印象を受ける。それでも記載している背景には、番号制と同時進行している「医療IT戦略」が関連している。

 

IT戦略本部 医療を重要課題に 

 政府のIT戦略本部では、2006年より医療IT化を重点課題として位置付けている。民主党政権に代わってからもスタンスは変わらず、現在は同本部内に「医療情報化に関するタスクフォース」という特別チームを編成し、医療IT化を推進。5月に発表された報告書では、(1)「どこでもMY病院構想」の実現、(2)「シームレスな地域連携医療」の実現、(3)レセプト情報等の活用による医療の効率化―等の医療IT戦略を提起している。

 

 (1)「どこでもMY病院構想」とは、個人が自らの医療・健康情報を医療機関等から受け取り、それを自らが電子的に管理・活用することを可能とするもので、「PHR」と同義の仕組み。2013年から調剤情報の提供を 開始し、翌年以降、情報提供の範囲拡大を検討するとしている。

 (2)「シームレスな地域連携医療」とは、市町村・二次医療圏等の地理的境界、また医療・介護といった職種間を超えて切れ目のない医療・介護連携を実現するというもの。電子カルテや各種検査データの情報等、持続的に運用可能な情報連携ネットワークシステム、いわゆる「EHR」の構築を掲げている。2014年度までの実現を目指しており、当該EHRに参加する医療機関等に対するインセンティブの付与も検討。来年の医療・介護報酬の同時改定に反映させることも視野に入れている。

 (3)レセプト情報等の活用による医療の効率化とは、厚労省が試行運用しているレセプトデータ等の第三者への提供事業、いわゆる「レセプト・ナショナル・データベース」。これは、医療サービス向上や学術の発展に資する研究を行う場合に、匿名化したレセプト情報・特定健診情報等を行政以外の第三者に提供するというもの。2013年4月より本格始動させようとしている。

 

医療IT戦略との連動 疾病・給付の管理不可欠

 医療IT戦略の内容は、前述の番号大綱等で示唆した「医療分野での将来的な利用範囲の拡大」と見事に一致。つまり番号大綱等で示唆した内容とは医療IT戦略の概要をなぞっただけものである。

 これらの意味するところは、政府内では以前から「番号制と医療IT戦略の連動」が既定路線として策動していた―ということだ。なぜなら、給付抑制と市場化をより堅牢なものとするためには、費用面だけではなく、疾病及びその病態、医療給付等の具体的な情報を管理・コントロールする必要がある。そのために、政府・行政・民間企業が個人の医療・健康情報を管理し利活用できる仕組みの構築が必要不可欠なのである。

 

≪用語解説≫

*PHR (Personal Health Record)

 個人が生涯にわたり自分自身に関する医療・健康情報を収集・保存し活用できる仕組み。米国ではマイクロソフトの「MS Health Vault」、グーグルの「Google Health」が主流。

 

*EHR (Electric Health Record)

 電子カルテ等の医療情報をネットワーク経由で複数の医療機関等で共有する仕組み。

 

表)基本指針、番号大綱で示唆する

医療・健康情報の利活用(抜粋)

 

◆基本指針  【社会保障分野でできること】

「…医療、介護サービスの現場において、本人が自分の診療情報等を容易に入手・活用できるようになれば、地域医療連携、医療・介護連携の基盤となり本人の利便に資する…」

 

◆番号大綱 【制度導入の目的と期待される効果】

「… IT化された情報連携システムの範囲をより拡大した場合には、自らの利用する医療・介護等の社会保障サービスに関する情報の入手・活用が可能になる」

「…個人の匿名性を確保した上で診療情報等の二次利用を行えば、 医療統計データの効率的な収集が可能となり、医学の向上にも資することとなる」

 

(2011年10月15日号 神奈川県保険医新聞 掲載)

番号制とPHR・EHR…

給付抑制と市場化に医療情報を利活用

 政府が社会保障・税の共通番号制度(以下:番号制)で総合合算制度(=社会保障個人会計)を構築し、「給付抑制と市場化」を目論んでいることは(その3)で解説した通り。この給付抑制と市場化の図式を堅牢なものとすべく、医療・健康情報の利活用を目論んでいる。

 

 2011年1月31日に閣議決定した「番号制に関する基本指針」及び同年6月30日に閣議決定した「番号大綱」では、番号制の医療分野での将来的な利用範囲の拡大、つまりは「あらゆる場面での医療・健康情報の利活用」を示唆する記載が散見される(左表)。

 これらの内容を要約すると、(1)自らの医療・健康情報の入手・閲覧及びその利活用(PHR*)、(2)医療・健康情報を活用した地域医療携基盤の実現(EHR*)、(3)医療統計・疫学調査等を目的とした診療情報等の2次利用―に大別できる。

 

 しかし、これらの記載はあくまで〝たら・れば〟で、目的や利用シーン等の具体的な論及はなく、理想論・可能性の範囲を超えていない。また、番号大綱では当面の利用範囲を社会保障各種制度の手続き等に限定。今後の発展性の言及だとしても、いささか勇み足が過ぎる印象を受ける。それでも記載している背景には、番号制と同時進行している「医療IT戦略」が関連している。

 

IT戦略本部 医療を重要課題に 

 政府のIT戦略本部では、2006年より医療IT化を重点課題として位置付けている。民主党政権に代わってからもスタンスは変わらず、現在は同本部内に「医療情報化に関するタスクフォース」という特別チームを編成し、医療IT化を推進。5月に発表された報告書では、(1)「どこでもMY病院構想」の実現、(2)「シームレスな地域連携医療」の実現、(3)レセプト情報等の活用による医療の効率化―等の医療IT戦略を提起している。

 

 (1)「どこでもMY病院構想」とは、個人が自らの医療・健康情報を医療機関等から受け取り、それを自らが電子的に管理・活用することを可能とするもので、「PHR」と同義の仕組み。2013年から調剤情報の提供を 開始し、翌年以降、情報提供の範囲拡大を検討するとしている。

 (2)「シームレスな地域連携医療」とは、市町村・二次医療圏等の地理的境界、また医療・介護といった職種間を超えて切れ目のない医療・介護連携を実現するというもの。電子カルテや各種検査データの情報等、持続的に運用可能な情報連携ネットワークシステム、いわゆる「EHR」の構築を掲げている。2014年度までの実現を目指しており、当該EHRに参加する医療機関等に対するインセンティブの付与も検討。来年の医療・介護報酬の同時改定に反映させることも視野に入れている。

 (3)レセプト情報等の活用による医療の効率化とは、厚労省が試行運用しているレセプトデータ等の第三者への提供事業、いわゆる「レセプト・ナショナル・データベース」。これは、医療サービス向上や学術の発展に資する研究を行う場合に、匿名化したレセプト情報・特定健診情報等を行政以外の第三者に提供するというもの。2013年4月より本格始動させようとしている。

 

医療IT戦略との連動 疾病・給付の管理不可欠

 医療IT戦略の内容は、前述の番号大綱等で示唆した「医療分野での将来的な利用範囲の拡大」と見事に一致。つまり番号大綱等で示唆した内容とは医療IT戦略の概要をなぞっただけものである。

 これらの意味するところは、政府内では以前から「番号制と医療IT戦略の連動」が既定路線として策動していた―ということだ。なぜなら、給付抑制と市場化をより堅牢なものとするためには、費用面だけではなく、疾病及びその病態、医療給付等の具体的な情報を管理・コントロールする必要がある。そのために、政府・行政・民間企業が個人の医療・健康情報を管理し利活用できる仕組みの構築が必要不可欠なのである。

 

≪用語解説≫

*PHR (Personal Health Record)

 個人が生涯にわたり自分自身に関する医療・健康情報を収集・保存し活用できる仕組み。米国ではマイクロソフトの「MS Health Vault」、グーグルの「Google Health」が主流。

 

*EHR (Electric Health Record)

 電子カルテ等の医療情報をネットワーク経由で複数の医療機関等で共有する仕組み。

 

表)基本指針、番号大綱で示唆する

医療・健康情報の利活用(抜粋)

 

◆基本指針  【社会保障分野でできること】

「…医療、介護サービスの現場において、本人が自分の診療情報等を容易に入手・活用できるようになれば、地域医療連携、医療・介護連携の基盤となり本人の利便に資する…」

 

◆番号大綱 【制度導入の目的と期待される効果】

「… IT化された情報連携システムの範囲をより拡大した場合には、自らの利用する医療・介護等の社会保障サービスに関する情報の入手・活用が可能になる」

「…個人の匿名性を確保した上で診療情報等の二次利用を行えば、 医療統計データの効率的な収集が可能となり、医学の向上にも資することとなる」

 

(2011年10月15日号 神奈川県保険医新聞 掲載)